カンボジアの小さな美術スクール

毎年春が来ると、卒業した高校の同窓会から会報誌が送られて来ます。

学校は大都会新宿にあり、通学路には、買いたい物や食べたい物や立ち寄りたい場所など、様々な誘惑があふれていました。
でも、校内に一歩入った途端、塀の向こうの新宿御苑の豊かな緑と暖かな日差しが、優しく生徒たちを包んでくれる。そんな素敵な空間が、私の母校・都立新宿高校です。

ある年、思い出の学校から桜の季節に送られてくる冊子に、お世話になった美術の笠原知子先生の近況が掲載されていました。

都立高校の教師を退職後、カンボジアのシェムリアップに、貧しい子供たちを対象にした完全無料の美術学校を設立し、運営しているというものでした。

私は、それを読んで、落とし穴に落ちたような衝撃を受けました。

中途半端に東南アジアを知っていることが理由かもしれません。埃にまみれて、電気も水道もガスも完全に整っていない場所で、そして何より、ポルポトによって教育も文化も芸術も破壊されてしまった場所で、恵まれた環境で仕事をしてきた先生が学校を開くなんて、どんなに大変なことだったろうと、勝手な心配で私の頭はいっぱいになりました。

それからしばらくして、思い切って先生にメールしてみました。すぐに返信がきて、秋に一時帰国するので、その時にお会いしましょうとありました。

〇十年ぶりの再会は、学校のある新宿南口の、プーク人形劇場のカフェ『プンクト』のテラス席でした。

先生は変わっていませんでした。優しくて落ち着きのある大人の女性のまま、年を重ねていらっしゃいました。

先生から、美術学校の10周年記念で作成した、生徒さんたちの作品集を見せていただきました。小さな子供から20代の若者の、鮮やかで伸び伸びとした作品たちが、本の中に詰まっていました。

恵まれた環境ではあるものの、進学校の選択科目で美術を教えること。
環境は厳しくても、多くを失った場所で、瞳を輝かせる子供たちに美術を教えること。

どちらの良さも、どちらの辛さも知っている先生の強さに、心を揺さぶられる再会となりました。

学校のあるシェムリアップは、世界遺産「アンコールワット」を訪れる際の拠点の町です。ポルポトによって失われてしまった『芸術』が、小さな美術スクールで、再び生まれ育っています。

縁結び工房では、小さな美術スクール2019年カレンダーの販売を開始しました。
事務手数料を除き、全額がスクール活動費や学校併設ギャラリーの運営等に使われます。

東南アジアの織物や工芸品を使った