3月、春色の和菓子で春を味わいつつ、物思う。
縁結び工房は、アジアと日本の伝統文化のご縁を結ぶ場所です。また、茶道からつながる世界をお届けします。
3月といえば、桃の節句!
『桃の節句=ひな祭り』の生菓子といえば、関東ではほとんど見かけることがないのですが、京都では『引千切(ひちぎり/ひっちぎり)』というお菓子が欠かせないそうです。
東京では、長寿の女神・西王母(せいおうぼ)にあやかった桃形のものや、お雛様の着物の袖を模したものなど、Girls Day にふさわしい可愛らしいお菓子が登場しています。
こちらは、鶴屋吉信さんの『雛の袖』。外郎(ういろう)でできた袖の重なり具合が絶妙です。
先日、「男はつらいよ」シリーズの第7作『奮闘編』を見ていたら、寅さんのおばちゃんと、マドンナの花子が、春の江戸川土手でヨモギを摘むシーンがありました。おじちゃん・おばちゃんが営む帝釈天の参道にある団子屋「くるまや」は、草餅(草だんご)が名物なんですね。
こちらは赤坂・青野さんの草餅。豊かなヨモギの香りは、春をいただいていることを実感させてくれます。ちなみに、赤坂・青野は、かのスティーブ・ジョブズが愛した店としても知られています。
さてさて、ヨモギに続き、3月といえば菜の花です。
菜の花畑をイメージした菜種きんとんも、この時期の代表的な和菓子といえるでしょう。
こちらは鶴屋八幡さんの菜種きんとん。一面の黄みどりに、鮮やかな黄色が映えます。
ヘレンドの器でお薄を合わせてみましたが、春らしさが引き立ちました!
茶人・千利休は、菜の花を好んでいたと言われています。
そして、豊臣秀吉に切腹を命じられ、自邸で自刃を遂げた際、菜の花が生けられていたとも言われています。
旧暦の2月28日、新暦でいう3月27日・28日が利休忌。つまり利休の命日です。流派によっては、利休忌までは菜の花を用いないのがしきたりだそうです。
秀吉に切腹を命じられる前に、堺に蟄居を命じられ、弟子の古田織部と細川三斎の二人が利休を淀の渡しまで見送った際も、淀川沿いに菜の花が咲き栄えていたという話を聞きました。
師の亡きあと名声をあげた織部も、後に、徳川家康から切腹を命じられ、自刃します。
利休と織部。秀吉と家康。
時代をリードする2人の美の伝道師が、2人の天下人の怒りを買い、同じ末路を辿ったというのは、偶然ではなく必然だったのでしょうか。
「春怨(しゅんえん)」とは、若い女性が春に物思いにふけることを言うそうですが、なぜか3月は、若くなくても物思いにふけってしまいそうです。
4月になれば、同じ「しゅんえん」でも「春の宴」となりますね。百花爛漫の季節は、もうそこまで来ています。