仏様の教えに心を傾けてみる、雨の7月

縁結び工房は、アジアと日本の伝統文化のご縁を結ぶ場所です。また、茶道からつながる世界をお届けします。

七夕が終わるとすぐに、東京ではお盆を迎えます。全国的には8月が多いようですが、東京は7月13日から16日の4日間が「お盆=盂蘭盆会」です。

元々は、旧暦の7月15日がお盆でしたが、暦が変わった時に、東京のようにそのまま7月中旬に行うところと、1月遅れの8月中旬に行うところに分かれたそう。
ですので、東京がホームタウンの者にとっては、世間一般のお盆休みの時期は、単なる夏休みとなります。

その旧暦の7月15日ですが、インドを始めとする仏教の世界では、古くは、「出安居(であんご=安居が明ける時)」に当たります。
Wikipedia などの説明を大雑把にまとめると、この出安居の日、人々は「安居」が明けたお坊さんたちに食料などを差し上げて功徳を積むと共に、先祖を供養するということです。

聞きなれない言葉かもしれませんが、「安居(あんご)」とは、お坊さんたちが一定の期間、寺にこもって修行をすることを言います。

雨季は、その名の通り雨の季節です。雨がたくさん降るこの時期は、草木が茂り、虫も多く発生します。そんな時に出歩いて、むやみに虫を踏みつぶしたり、殺生を行わないために、僧たちは寺にこもり、修行を積むのです。その修行の期間が「安居」です。

私が初めて「安居」という言葉を聞いたのは、最初にタイに住んだ時でした。
タイでは、大体6月から10月が雨季です。タイにおける安居の時期は、タイの雨季に合わせて設定されています。
旧暦8月の十六夜が安居の初日、つまり安居に入る日「入安居(いりあんご)=カオパンサー เข้าพรรษา」になります。そして、旧暦11月の満月の日が安居を終える日、つまり安居を出る日「出安居(であんご)=オークパンサーออกพรรษา」となります。
現在の暦に直すと、毎年日にちが変わり、2021年の場合は、入安居は7月25日(日)、出安居は10月21日(木)です。

以前、私はタイの大学で大学生に日本語を教えていたのですが、7月のカレンダーを見て、「何の日かよくわからないけど、祝日があって嬉しい!」と思いました。
そうなんです、日本では考えられないのですが、タイでは「入安居」の日は祝日で、公的機関は休み。もちろん学校も休みという、とっても大切な日なのです。

「出安居」の日は、祝日ではないのですが、宗教的に重要な日で、アルコール類の販売が禁止され、公共の場での飲酒も禁止されます。

入安居、出安居は、こんな具合に私の生活に関りがあったのですが、正直、お坊さんがお寺にこもっている「安居」の期間中は、私には全く関係のないもので、意識に上がることもありませんでした。
それが、「あー、そういうことだったのか」と、腑に落ちたのは、2004年に映画化された、さだまさしさん原作の「解夏」を見たときです。

(小説は、短編集「サクラサク」に収録されています)

これもまた仏教用語ですが、「解夏」は、安居の修行を終えることを言います。安居明け、つまり出安居です。
この物語は、主人公の青年が、病により視力を失っていく過程の苦悩と、それを受け入れ、立ち直っていくまでを描いています。厳しい現実を受け入れることができた時が「解夏」なのです。

日本には、雨安居の他に、雪安居もあります。
修行僧が自然現象に合わせて、寺にこもって一定の期間修行を積むことと、私たちが何らかの困難を抱えつつも乗り越えていく過程を、この映画を見てようやく、自分の人生に結び付けて考えることができるようになりました。

2020年の3月頃から、今もずっと日本中が、そして世界が、長い安居に入っているようにも思えます。
何年か経ったのち、この時期を振り返った時に、ただの無駄な時間だったということではなく、有意義な時間であったと思いたい、思えるようにしていかなければならないと思う、雨の多い2021年の7月です。

先祖に感謝を込めて、手製の葛饅頭で一服。

東南アジアの織物や工芸品を使った